馬頭町川崎町長への手紙
(経緯)--------------------

私(Webサイトの管理者の松井幹彦)は3年ほど前に馬頭町に越してきました。
少しして、「町づくり懇談会」というのがあったので出席しました。町長以下、町の幹部職員が、町民の話を聞こうというものです。

しかし、出席してびっくりしました。「町づくり懇談会」で話し合われる内容は、「○○の橋が傷んでいるから直して欲しい」「イノシシに畑が荒らされて困る」というようなものがほとんどでした。過疎化が進む町の将来を心配する声は(私の発言をのぞくと)出ませんでした。確かに橋の補修やイノシシ対策も「町づくり」と言えないことはないと思いますが……。

そのすぐ後で、町長あてに手紙を書きました。道路や橋の補修の声に押されて、ほんとうの意味での「町づくり」についてあまり発言できなかったからです。

少し長いのですが、ここにその全文を引用します。あれから3年ほど経過していますが、これがこのWebサイトを立ち上げた動機です。これを「『町おこし』への提案」フォーラムのきっかけにしたいと思います。


(町長への手紙:2002/12/19)--------------------

川崎町長様

先日の大山田上郷の「町づくり懇談会」(14日:上郷生活改善センター)に出席した松井と申します。
町おこしについて、観光産業の面から発言させていただきました。
もう少しお伝えしたいことがありまして、筆を執らせていただきます。

1.馬頭町の産業基盤について

過疎の問題を解決するには、地場産業を興し、産業基盤を整えることが必要です。あたりまえのことですが、職場のない町には生活がありません。どんな形にしろ、職場の創造こそが町づくりの基本です。

町長様をはじめとして、町政に携わる方には、そんなことは先刻ご承知のことでしょう。「そんなに簡単なものじゃない、それが難しい」ということだと思います。工業団地への企業誘致や、農業の集約化、道路の整備事業などによって雇用の創造に努めておられると思います。しかし、残念ながら現状では、いずれも問題点が多く、過疎の問題を解決して、長期の町づくりに結びつけるのは難しいように思われます。

たとえば、工業団地への企業誘致は、この冷え込んだ経済環境の中では、思うように進まないのが現状でしょう。また、農業の集約化は、自由化された農作物が大量に輸入されている状況では、価格競争力の点で太刀打ちできないことでしょう。道路の整備事業は、一時的な雇用は生み出しますが、継続性がありません。逆にバイパス道路が既存の町を衰退させてしまう例が多くみられます。

現在の馬頭町の状況からみて、可能性のある産業資源は、林業、農業、観光の3つだと思われます。少しずつでもこの3つの産業を建て直していくことが、結局は、最短の道なのではないでしょうか。以下に、この3つの産業について、馬頭町としての可能性という面から、私なりの意見を述べてみます。なにぶん素人の発想ですから、考え落としや足りない点がたくさんあると思いますが、少しでも参考にしていただければ幸いです。



2.観光産業について

馬頭町を発展させる可能性のある産業資源は、林業、農業、観光の3つであることを述べました。現状を考えると、観光>農業>林業の順番で、取り組みがしやすく、また実現の可能性が高いと思います。この順番で取り上げていきます。
先日の懇談会でも申し上げましたが、馬頭町は観光に関して、とても大きな財産を持っています。それは、近隣の市町村には無いものです。それを生かすことが重要です。その財産とは、

「馬頭町」

という名称です。この名称から受けるひとつのイメージがあります。
それは、昔のままの懐かしい「ふるさと」です。里山があり、田圃があり、畑が広がり、小川が流れている……昔の日本の姿を描いた絵本に出てくるような「ふるさと」です。

この町に住み、長年生活している人には、「馬頭町」の名称から受けるイメージは想像しづらいかも知れませんが、都会に住んでいる私の知人は、ほとんど例外なく「ふるさと」を頭に浮かべるようです。

これを活用しない手はありません。たとえば「心のふるさと」というようなキャッチフレーズをつけて、イメージにぴったりの町づくりを目指したら良いと思います。「美しい、日本の昔の田舎」を、町をあげて演出します。

このための新たな投資は、ほとんど要りません。というのは、馬頭町には、里山があり、田圃があり、畑が広がり、小川が流れている……昔の日本の田舎がそのまま残っているからです。

ただ、残念ながら、このイメージに相反する部分も存在します。たとえば、道ばたに、廃自動車が放置されています。冷蔵庫やテレビなどの家電製品が捨てられています。無人となった家屋が崩れかかっています。これらは、馬頭町のイメージを損なうだけです。取り除く必要があります。

街道沿いを中心に、担当者がチェックをして、放置廃棄物の処理をします。町役場でプロジェクトチームを作るなり、青年団や町会組織を活用するなりして、きれいな馬頭町にしましょう。町としても、処理のための積極的な手助けをする必要があるでしょう。

3.町の中心部を活性化する

観光には、目玉が必要です。幸いにして現在の馬頭町には、広重美術館があります。ただ、残念なことに、現在は「ひとつの点」でしかありません。多くの観光客は、広重美術館をみて、そのまま次の目的地(たとえば袋田温泉)に移動してしまうというようになっているのが現状です。

この「ひとつの点」を「線」に広げるために、現在造成中の「森林公園」(「すくすくの森」?)と、電線の地中化を進めている馬頭町商店街を活用します。森林公園は、もっとPRをしましょう。パンフレットや看板で、四季折々のみどころを解説しましょう。馬頭観音や静神社と結びつけて、30分、1時間、2時間などのモデルコースを設定します。

商店街は、「ふるさとのむかし町」のイメージを演出します。昔のままの建物が残っているところは、修復します。新建築になってしまったところは、木材などを活用して昔の町並みのイメージを再現します。現状では、まだ昔の建物が多く残っているので、あまりコストをかけずに町並みを再生できると思います。

各商店にお願いして、観光客用の商品を用意してもらいます。そして、それを道路に面した一番目立つところにディスプレイしてもらいましょう。とうざは売れないかも知れません。だから、あまり無理をしないで、商品は何でも良いと思います。饅頭、せんべい、焼き芋、Tシャツ、もんぺ、炭、木工品、野菜、米、……どんな業種でもこだわらずに何でもOKとします。昔風の町並みを散策してもらうきっかけとなれば成功と考えましょう。

これで、森林公園←→広重美術館←→商店街の流れを作ることができれば、点が線に広がります。
長期的なビジョンとしては、川岸も活かしたいとおもいます。護岸を整備して散策ができるようになると、山、町、川が線で結ばれます。観光客が増えたら、駐車場を川岸に設けて、美術館までぶらぶら歩いてもらったり、馬車や牛車で運搬したり、川には渡し船や川遊び基地を作るなどの展望も生まれるでしょう。

上記の手順で、「点」から「線」に広がった観光資源は、「面」に広げることが可能です。「面」に広げるには、農業を活用します。詳細は次項で述べます。



4.農業について

馬頭町の産業基盤としての農業は、観光ほど簡単にはいかないでしょう。日本の農業の置かれた状況を越えて活性化することは不可能だからです。しかし、現状を維持しながら、今よりも少し良い状況に持っていくことができるように思われます。

馬頭町の農業を、今よりも‘少し良い’状況にするためのキーワードは、「自給自足」です。馬頭町での農産物の自給自足を目指します。馬頭町に住んでいる人は、なるべく馬頭町の農産物を購入してもらうようにします。それには、3つの条件が必要です。

ひとつは、多品種少量生産です。他の町で作ったものを購入しないでもすむようにするには、なるべく多くのものを馬頭町で生産する必要があります。これは生産面での条件ということになります。

二つ目は、農産物の流通経路の確保です。馬頭町で作成した農産物を馬頭町の人が購入できる状況を作らなくてはなりません。ヒントは、久那瀬の農産物直売所にあります(これについては、後ほどもう一度ふれます)。

三番目は、消費者の意識改革です。消費者すなわち町民の大部分は生産者でもあるでしょう。お互いに共生するという意識が無いと自給自足は成立しません。農産物の自給自足の意義(安全性の問題や、環境の問題、地域経済の問題など)を周知する必要があります。町が主導して、研究会や講習会をすることが、意識改革に結びついていくと思います。

5.農産物の生産者直売の町へ

馬頭町の農業は、長期的には自給自足を目指すにしても、時間がかかるでしょう。生産者であり消費者でもある町民の意識が改革し、「農産物自給自足の町=馬頭町」として有名になれればすばらしいと思いますが、一朝一夕にはいきません。

そこで、とりあえずのテーマとして、観光客相手に「農産物の生産者直売の町」を目指します。幸いにして、久那瀬の農産物直売所は、モデルケースとして有名になりました。道の駅などに押されて、以前のような勢いが感じられませんが、もう一度原点に返ることによって、大きな力に結びつけることができると思います。

最近、各地に増えている「道の駅」の農産物直売所と久那瀬の農産物直売所の違いは、「バザール(=市場)」であるかどうか、だと思います。冷暖房の完備したアルミサッシの内側に販売所を設ける(「伽藍とバザール」という用語での「伽藍」にあたります)のではなく、土間の上にパレットを置いてその上に品物を並べるやりかたです(こちらが「バザール」です)。品物の並べ方は、規則性が無くて良いのです。規則性がない方が、発見のおもしろさがあります。そのあたりが、久那瀬の農産物直売所の原点だと思います。

このような考え方で、農産物直売所を増やしていきます。このようなスタイルの販売所は展示物に規則性がないのですから、規模を小さくする必要があります。大きな規模では、一部しか見ることができないからです。全体を見渡せる程度の小さな規模の販売所を数多く設置します。街道沿いに直売所が点在すれば、観光客にアピールすることができるでしょう。
時間をかけて、このような小さなバザールを増やしていくことで、町全体をひとつの大きなバザールにすることができるのではないでしょうか。

最近は「買い物ツアー」も結構な盛り上がりをみせています。港町に立ち寄って魚介類を購入するためのものが多いようですが、農産物や山菜、キノコなどでも十分対応できます。「広重美術館を見て産地直売の野菜を買って帰る」という観光を「美しい心のふるさと」で提供できるのです。

前項の、自給自足の農業に戻りますが、このような拠点を農産物の流通の経路として育てていくことによって、一歩ずつ大きな目標に近づいていくことができると思います。街道沿いで野菜を買うのが当たり前になれば、生産者側でも、自然と、品目を工夫するようになるでしょう。だんだんと多品種少量生産に移行していきます。

街道沿いに畑を作っている人は、自分で直接販売する人も出てくるでしょう。その場合は、無人の縁台でも可能です。もしも畑作業をしているときなら、消費者と直接会話することができます。生産者が直接消費者に販売する「古くて新しい形の農業」を、そこに期待することができます。消費者の側にとっては、生産の現場を見て農産物を購入するおもしろさがあります。食の安全性に対する生産者と消費者の溝も埋まるように思います。ここに、価格競争とは無縁の農業として、ひとつの産業を確立できるように思われます。

このような流通経路の確保には、町の補助が必要でしょう。しかし、多くの金額は必要ありません。町民の意識を醸成して、ほんのきっかけを提供すればすみます。頭を切り換えられるかどうかだと思います。



6.新しい道路の建設について

農作物の生産現場で生産者から直接農作物を購入するのは、観光客にとってはとても楽しいイベントだと思います。そのイベントを支えるには、道路事情が十分に整備されている必要があります。新しい道路の建設にあたっては、できるだけこの点を考慮しておくことが望まれます。

実現の可能性を無視して理想的な道路を考えると、次のようになります。

■ 生活に密着した道路であること。
■ ゆっくりと景色を楽しみながら走ることができる。
■ いつでも路肩に停めて、写真を撮ったり、農産物を買ったりできる。

このような点を考慮すると、一方通行の道路が浮かんできます。
新しい道路を建設するときは、既存の道路を一方通行にして、すぐ近くにもうひとつ逆方向への道路を建設すると効果的です。

■ 既存の道路はそのまま残るので、さびれてしまうことがありません。
■ 一方通行の道路は、ゆっくり走っても迷惑をかけません(急ぐ車が簡単に追い越すことができます)。
■ 路肩に停めても交通の流れに支障ありません。
■ 往路と復路を利用して、周回することができるようになります。観光道路に最適です。

このような道路を建設することは、現実には難しいかも知れません。しかし、幹線道路だけでも、この方向に近づけていくことはできないものでしょうか。近隣の市町村でこのような道路行政を行っているところはありませんから、マイカーのドライバーに馬頭町を強く印象づけることができると思います。

7.林業について

最後に林業について書きます。林業は、おそらく、産業基盤を整備するのが一番難しいでしょう。これまでの林業政策が間違えていたことに気づいても、修正には 50年単位の年月がかかります。現在できることを、できる範囲でおこない、環境資源としての山林が評価されるようになる時期まで、だまし、だましで、引き延ばすのがベターな方策と思います。

現在できることは、2つあります。ひとつは、国際森林認証(FSC)のような国際的な森林保全の基準にむけて取り組むことです。馬頭町の木材の価値を高めて、将来の馬頭町のための長期的な視野での投資が必要です。FSCの認定は、個人規模での取得は難しいと思われますので、町のバックアップが欠かせません。

もう一つは、農業と同じように自給自足を目指します。といっても、馬頭町の森林の場合には、供給が圧倒的に過剰です。しかし、その一部でも町民の消費で吸収することによって、林業を根絶やしにしないですみます。

■ 町営住宅は、町の材木を使って、木造とします。間違っても、コンクリートのマンションなどは建築しないことです。「心のふるさと」づくりにも抵触します。
■ 町民の建てる住宅は、なるべく、町の木材を使って、町の木工所を使って、町の大工さんを使って建築するように、税金面や建築補助金などで誘導します。
■ 補助金を交付する条件として、何か新しい試みを加えるようにします。木造住宅を活かす工夫なら、どんな小さなことでも、発表の場を設けます。将来的に、町全体が木造住宅の展示場になれれば、観光資源としても効果を発揮してくれることでしょう。

8.さいごに

馬頭町の町おこしについて、観光事業を中心に、思うところをまとめました。馬頭町の住人になって、まだ半年あまりで状況も十分把握できていません。また、すべて素人考えで、笑止の部分も多いと思いますが、少しでも役に立てば望外の喜びです。
私自身は、馬頭町に越したことをきっかけに、何らかの形で町おこしに参加したいと思っております。何か役に立てることがあれば、ぜひお声をおかけください。よろしくおねがいします。

                           松井幹彦

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この文章は、このサイトの管理者である松井幹彦が2002/12/19に馬頭町町長にあてて送った手紙をそのまま収録しています。








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